金融市場における「売り」という言葉は、単に売却する行為を指すだけではない。
「市場が今後値下がりするだろうから、今のうちに売っておかないと損をする」という意味合いを持っているのである。
ブル・マーケット、ベア・マーケットという表現を見たり聞いたりすることが多くなった。
ブル・マーケットは今後の値上がりが期待できる強気市場を指し、ベア・マーケットは今後値下がりするであろうという観測が広がっている弱気市場を指す。
ブル(雄牛)が角を突き上げる動作が、市場の右肩上がりの曲線を想像させることから強気だと言われている。
一方、ベア(熊)は戦う時に腕を振り下ろすために、その動作が右肩下がりの曲線を想像させるため弱気だと言われているのである。
ブル(強気市場)についてはともかく、ベア(弱気市場)についてのたとえは正しくないそうだ。
話は熊の毛皮を狙ったハンターたちが活躍した時代に戻る。
熊ハンターたちは、熊を捕らえて毛皮を得る前に、あらかじめ買い手を見つけて価格を約束する、すなわち、あらかじめ「売る」契約を結んでしまうという商慣習を持っていた。
取らぬタヌキならぬ、取らぬクマの皮算用である。
これから冬の準備をしなければならないタイミングである秋に、クマ猟を行うとしよう。
冬になると寒くなるので、買い手はクマの毛皮が欲しくなる。
毛皮が欲しいという需要側の欲求が高まるので、価格は比較的高めになりがちである。
熊ハンターにとってはいい話である。
どうしてあらかじめ契約してしまうのであろうか。
理由はリスク回避である。
熊ハンターにとって一番の心配事は毛皮の価格の下落である。
実際に猟が始まると、さまざまなことが起きると考えられる。
クマがいやにノンビリし始めて、たくさん取れすぎちやって価格が下がることもある。
暖冬になって、毛皮なんて必要なくて価格が下がる場合もある。
動物愛護団体が「毛皮不買運動」を起こすことだって考えられないわけではない。いずれにしても、将来の価格が不安定になるというリスクを負うのである。
もちろん、北極並みの大寒波が訪れて毛皮の価格が高騰するかもしれないが、それよりも価格の下落リスクのほうが怖いのだ。
このリスクを回避するために熊ハンターはあらかじめ売る契約を結んで、猟が始まる前にリスクを限定しておくのである。
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